互いに作用する胃腸と脳のつながり(IAFNR報告1)

この記事はIAFNR 3rd Annual ConferenceにてDr.Vojdaniによってプレゼンされた「免疫性炎症によって引き起こされる代謝性疾患」と参考文献1に提示された論文をもとに書かせていただきました。

THM!!(一般の方向け)

胃腸と脳は、我々が思っているよりも密接にコミュニケーションをとっています。我々は呼吸することや、皮膚や髪の成長を考える必要はありません。我々は、何を食べるか決めてから、口の中に入れた後、何を口に入れたか、覚えている必要も考える必要もありません。ほとんどの人は、何を食べたかすぐに忘れてしまう事でしょう。しかし、何を食べたか、少しは覚えていた方が良いかもしれません。腸筋神経叢は、腸壁内の自律神経で、その構造的、機能的、類似点から第二の脳と呼ばれています。近年の研究で、胃腸−脳の双方向性の関係が明らかになってきました。一方がもう一方に与える影響は大きく、腸筋神経を含んだ自律神経、ホルモン経路など様々な経路で互いに作用し合っています。狂牛病は、食べたものが神経システムに及ぼす病気の例として、とてもわかりやすく話題になった病気ですが、狂牛病に限らず、我々の食べているものは様々なレベルで胃腸内のバクテリア環境やその防壁構造に影響を与え、便秘や下痢、消化不良などといった症状だけではなく、食べ物によって引き起こされる胃腸内の異常が神経変性疾患を含めた様々な神経の障害、異常の要因となる可能性があります。食べ物アレルギーやセリアック病、慢性的な胃腸炎などを抱えている方々は多いと思います。食生活の改善は、それら胃腸の異常だけではなく、そこから直接的または間接的に引き起こされる可能性のある神経疾患の改善と予防にもつながるかもしれません。これを機に、食生活の重要さをもう一度見直してみると良いかもしれません。我々の身体、脳は我々の食べるものによって作られるというのは大袈裟な表現ではないかもしれません。

(食生活の改善をテーマに、グルテン過敏症についてはこちら

以下、もっと詳しく知りたい方、医療従事者の方々向けです。

Overview

胃腸と脳、何らかの関係はあると考えられてきましたが、最近ようやくどのような関係があるのかがわかってきました。2つとも外部からの侵入者に対する防御、免疫システムと大きく関わっています。胃腸管にはその表面に、外部からの侵入を防ぐバリアーの構造があり、脳にも血液脳関門(血液と脳の組織液との間の物質交換を制限する構造)があり、それぞれ、外部からの侵入者を防ぐという点において、似た構造をしています。この2つの関係は、ただ単に似た役割と構造というだけではなく、2つは互いにコミュニケーションをとりあい、影響し合っていると考えられています。その関係は生まれたときから始まっており、脳がどのように形成されていくかという点にも大きな影響を与えると考えられています。いくつかの研究は、胃腸の疾患と自己免疫疾患、脳に関係する疾患(糖尿病[Typle 1], 鬱病、多発性硬化症、自閉症など)の関連性を示しています。神経変性の疾患は、神経システム内の異常が原因ではなく、慢性的炎症、胃腸内に存在する微生物環境の異常やその他胃腸の異常が胃腸のバリアー構造の異常を招き、脳の血液脳関門の機能にも異常を招く可能性があるとされています。この理論は、胃腸と脳のバリアー構造の修復により、様々な内臓器官の機能の修復、病気の予防の可能性を示唆しています。

脳の胃腸の双方向性コミュニケーション

近年の様々な研究が、脳と胃腸の関係を示しています。2009年、ReicheltとKnivsbergは、胃腸と自閉症の子供の脳の関係を調べました。4年間の研究の結果、グルテンとカゼインなしの食事が自閉症の子供に大きな改善をもたらすことを見つけ出しました。食事が及ぼす脳への影響の可能性を示しました。(2)また12年におよぶ大規模な研究は、中枢神経と胃腸は互いに影響し合っていることを結論づけています。(3)最近のBercikのレビューでは、腸筋神経システム、迷走神経、交感神経、脊椎神経、ホルモン経路(サイトカイン、ホルモン、神経ペプタイドなど)などが伝達物質として、脳ー胃腸のコミュニケーションを担っていると報告しました。(4)さらに、O’Mahoneyは、胃腸の微生物環境が脳とコミュニケーションする、よって行動を調節する能力は、近年わかってきている新たな健康と病気の概念であるとしています。胃腸のバクテリアの減少、増減は胃腸、神経ホルモン、免疫システムの関係性を崩し病気に導く可能性を秘めています。(5)

脳が胃腸を含めた、内蔵とコミュニケーションをとる経路には、自律神経(Hypothalamic-pituitary-adrenal, HPAとsympatho-adrenal axis)があります。この2つの自律神経経路は、胃腸と関係のあるリンパ組織(the gut-associated lymphoid tissue, aka., GALT)を調節する役割があります。一方で、胃腸は脳とコミュニケーションをとるために、主に求心性神経、免疫細胞、腸内分泌細胞を利用しています。これら双方向性の関係は、胃腸または脳の一方に問題が生じたい際、もう一方にも何らかの障害を及ぼす可能性を示唆します。つまり胃腸の問題から、直接的または間接的に、自己免疫疾患や神経疾患につながる可能性があるのです。

神経変性疾患と胃腸のつながり

胃腸内のバクテリア環境や、その他胃腸の問題が、神経変性疾患の要因となる可能性が近年示唆されています。BererとKrishnamoorthyは多発性硬化症の動物モデルより、胃腸のバクテリア環境が中枢神経の自己免疫を誘発する可能性を提言しています。胃腸のバクテリア環境は局所的な免疫機能の調節だけではなく、全身の免疫機能に影響を与える事がわかってきました。(6)

RoundとMazmanianは、胃腸内の微生物環境が胃腸の免疫反応を形成すると結論づけています。彼らは、免疫不調が様々な、自己免疫疾患、アレルギー、癌などの要因となりえることを訴えています。彼らの研究では、胃腸内のバクテリア環境の異常が、免疫細胞の異常を招く証拠を提示しました。(胃腸内バクテリア環境の異常が免疫制御の異常を招く。これは、炎症性サイトカインの生成につながり、LPS[*1]の中枢神経への侵入につながります。結果として、様々な神経物質に対する抗体生成につながり、神経炎症、神経変性、神経自己免疫性などを招きます。)(7)

とっても似ている胃腸と脳の免疫システム

これまで、胃腸と脳のコミュニケーションと、それぞれ外部の侵入者に対する防御システムがあることを述べてきました。2つの防壁バリアーは、同じ目的を持っています。この共通の目的は、2つの構造の類似点だけではなく、そのメカニズムや生化学にも共通点があります。Scienceの2011年11月号(8)では、Stellaが、脳と胃腸の2つのシステムが、どのようにarachidonic acidを生成し、proinflammatory prostagladinsへ変換し、炎症を招くかということを示しました。2つのシステムともに、とても類似したプロセスだったのです。

さらに学会では、このプロセスについての説明、さらに胃腸と脳の構造的なバリアーの話が詳しくなされました。キーとなるポイントを抜粋させていただくと”While the intestinal barrier’s epithelial cells are endodermal in origin, wheres the BBB’s endothelial cells are mesodermal, both are held together by tight junctions that polarize the cells to form distinct apical and basolateral membrane compartments. “(1)胃腸も脳も、その構造的に内部と外部の輸送はきつくコントロールされていますが、病気などのとき、この経細胞輸送経路に異常が発生してしまいます。

防壁をくぐり抜けて、胃腸から脳へ

胃腸のepithelial barrierとそのintercellular tight junctionsがリンパ組織、神経分泌ネットワークを通じ、感染症や病原菌の第一防御壁として機能します。経細胞輸送に異常が生じたとき、胃腸内または外の自己免疫異常が発生する可能性があります。このような防御システムの崩壊、異常は食物アレルギー、自己免疫疾患の誘発を招く可能性があります。(9)胃腸、自己免疫異常は、内毒素(LPSなど)と他の胃腸内の好気性、嫌気性バクテリアからの毒素の増加を伴う事がわかってきています。このような毒素の増加は、慢性的な胃腸内の炎症、構造的バリアである、Tight junctionプロテインの変性などを招きます。感染症や胃腸内の異常には、このように、LPSなどの毒素の異常が関係している事がわかってきています。胃腸内防御の崩壊と自己免疫疾患の関連において、LPSは氷山の一角にすぎないですが、Liなどは以下のようにLSPの役割を話しています。「intratracheal installation of LPS in the rat produceces a neutrophil alveolitis, transiently increases airspace epithelial permeability, and increases the TNF activity and NO levels in bronchoalvelolar lavage fluid and in supernatant of BAL leukocuytes in culture」(10)

密着結合プロテインの崩壊

Zonulinは胃腸の透過性を調節するひとつの密着結合プロテインです。糖尿病の兆しがある患者の血清を検査したところ、0.9-3.5年内に糖尿病を発病した70%の患者の血清にzonulinが増加していたことがわかりました。これらの結果は、胃腸の透過性の増加はzonulin upregulationが関連し、病気の発病、胃腸の透過性、自己免疫疾患などにも関連しています。zonulinの増加は、セリアック病患者にも見られることがわかりました。(10)zonulinの崩壊は、胃腸の透過性を増加させ、様々な疾患につながる可能性が示唆されています。

なお、日本でも大きく報道された狂牛病、(BSE, bovine spongiform encephalopathy)のメカニズムについて、胃腸と脳の関係を示すひとつの証拠として、説明がありました。(ここではその説明は省かせていただきます。)

Discussion

セリアック病患者の約50%は、グルテンフリーの食事(約6ヶ月)で、腸絨毛の状態が改善し、様々な症状も改善されると報告されています。Leaky gut syndromeがセリアック病から誘発されるメカニズムといて、Gliadinが上皮細胞と結合し、密着結合プロテインを損傷させることが提唱されています。このようなケースで、グルテンフリーの食事は、LPS転移と胃腸の透過性増加による炎症反応の改善になりません。しかし、グルテンフリーの食事と、他の腸絨毛改善のための自然療法とを組み合わせ、30-90日間の治療では、症状の改善が認められたそうです。

結論については、文頭のTHMをご参照ください。

*1:LPS(lipopolysaccharide), the inflammogen.

参考文献

  1. Vojdani, A, Bautista, J., Intestinal and Blood-Brain Barrier: Interface between Health and Diseases, 2012, Funct Neurol Rehabil Ergon 2012; 2(3):pp.277-297
  2. Reichelt KL, Knivsverg AN. The possibility and probability of a gut-to-brain connection in autism. Ann. Clin. Psych. 2009; 21(4):205-211.
  3. Koloski NA, et al. The brain-gut pathway in functional gastrointestinal disorders is bidirectional: a 12-year prospective population-based study. Gut. epub Jan 2012.
  4. Bericik P. et al. Microbes and the gut-brain axis. Neurogastroenterol Motil. 2012; 24:405-413
  5. Cryan JF, O’Mahony SM. The microbiomegut-brain axis: from bowel to behavior. Neurogastroenterol Motil. 2011; 23:187-192.
  6. Berer K. Krishnamoorthy G. Commensal gut flora and brain autoimmunityu: a love or hate affair? Acta NEuropathol. 2012; 123(5):639-651
  7. Round JL, Mazmanian SK. The gut microbiota shapes intestinal immune responses during health and disease. Nat. Rev. Immunol. 2009; 9:313-323.
  8. Stella N. Anatomy of prostaglandin signals. Science. 2011; 334:768-769
  9. Vojdani A, Lambert J. Functional neurology and immunology: II. The immune system, mucosa immunity and intestinal permeability. Funct Neurol. Rehabil Ergon. 2011; 1 (2):223-236.
  10. Fasano A, et al. Zonulin , a newly discovered modulator of intestinal permeability, and its expression in coeliac disease. Lancet. 2000; 355:1518-1519.
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Posted on 11/04/2012, in 機能神経学, 互いに作用する胃腸と脳のつながり(IAFNR報告1). Bookmark the permalink. Leave a comment.

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