Category Archives: 研究/文献

2013.高齢者における運動と脳の健康(Neurobiology of Aging)

Screen Shot 2013-10-25 at 11.42.15 AM今回は高齢者における運動(激しい運動ではなくて身体を動かすという身体的活動を指します)と脳の健康状態の関連性を示す、2013年Neurobiology of Agingに発表された研究をご紹介します。

寿命年齢の増加と高齢化社会の今日、高齢者にとって認知機能低下や痴呆、アルツハイマー病など脳の老化に伴う機能低下、病気などは深刻な問題です。加齢に伴う認知機能低下と遺伝的要因を示すエビデンスが見つけられる中、脳の老化は生活習慣によって大きな影響を受けることも明らかになってきています。認知機能低下を防ぐ生活習慣のひとつとして大事なのが”身体を動かすこと”だと考えられています。複数の研究結果が認識機能のテストにおいて(理論、口答、視空間の総合的認識力テスト)身体をよく動かす生活習慣を送っている人のほうが、いつも座っており身体的活動が低い人に比べて、良い結果を示しさらにはアルツハイマー病を発病するリスクが低い可能性を結論づけています。

身体を動かすことが脳の老化を防ぐ根拠はまだまだたくさんあります。2003年、2009年、2010年、2011年の論文では、身体を動かす生活習慣の高齢者の脳はそうでない高齢者の脳に比べて、海馬を含む側頭葉部分の脳容積が顕著に多いことが報告されています。

年齢を重ねるとともに身体を動かす機会を失ってしまい、脳の老化ととも様々な問題を抱える現代社会において、これらの研究は身体を動かすことの重要性、何らかの運動を保つということが脳の老化を防ぐ、最も簡単で効果的な予防策であることを示しています。

今回の研究では331人の”健康な”75歳の方々に対して、自己申告の運動レベル(どれくらい身体を動かしているか)と認識能力、脳(灰白質,白質)の容積の関連性を研究しました。

脳の健康状態、認識能力を測るために以下のテストが行われました。

Trail-Making Test (TMT):実際にこの研究で使われたものではありませんが、このように数字を線で結んでいってもらいます。

Trail-Making Test (TMT):実際にこの研究で使われたものではありませんが、このように数字を線で結んでいってもらいます。

  1. Mini Mental State Examination(痴呆の診断用に用いられるもので、30点満点の11の質問で、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などを検査)
  2.  verbal fluency task(直訳すると言葉の流暢さを測るテストですが、1分間のうちに出来るだけ多くの動物を言って下さい。国を言って下さい。といったように、あるカテゴリーのものを出来るだけ多く言ってもらうテスト)
  3. Trail-Making test (taskの実行機能を検査します。)

身体的活動は「軽い」「激しい」とに分けられ、さらに1週間に30分以上行う身体的活動の回数とで分類されました。参加者は、1週間に何回ほど「30分以上の軽い運動(ウォーキングやガーデニングなど)」を行うか、何回ほど「30分以上の激しい運動(ランニングや水泳など)」を行うか質問されました。回答をもとに参加者を運動レベルの「とても低い」「低い」「中程度」「高い」に分けました。

ちなみに運動レベルの「とても低い」または「低い」に分けられた参加者は、汗をかくほどの運動が1週間のうちにほぼゼロだと判断さらた人たちです。運動レベルが「高い」に分けられた参加者たちは汗をかくほどの運動(30分以上)を1週間のうち3回から5回ほど行っていると判断さらた人たちです。

結果:運動レベルが高い人ほど認識能力テストでは総合的に良い結果を出し、脳の容積も大きいことがわかりました。

もちろんこの研究に関してだけ言えば、脳の容積が大きく脳の機能が正常に保たれたいたから、望むような運動を続けられたいたのか。運動を続けていたことで脳が老化せず容積が保たれたいたのか。どちらかを結論づけることはできません。

しかしながら神経可塑性や運動するための脳活動、身体を動かすことでの脳へのインプット、筋肉や関節の動きを脳に伝える求心性神経経路、小脳の活動などなど、”使うことで保たれる、神経細胞の生存には活性が不可欠”という神経細胞の基本的な性質を考慮した時、運動をすることが脳の老化を防ぐのに大きな役割を果たすことは間違いないと思います。

いつからでも遅くありません。脳や身体の機能が保たれているうちに、その機能を保ってゆくためにできる最良のことはその機能を使ってあげることです。

Reference:

1. Christian Benedicta et al. Association between physical activity and brain health in older adults. Neurobiology of Aging 34 (2013) 83–90

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2013.07-片頭痛は脳の異常(Medscape News)

片頭痛は脳の血管の拡張によって、血管まわりの神経が刺激されることで引き起される頭痛と考えられています。片頭痛について、2013年7月のMedscape news(1)に掲載されている記事をご紹介します。

PET検査を用いて片頭痛の前ぶれ(予兆)がある状態の患者の脳活動を測定したところ、脳の数カ所の部分が活動していることがわかり、つまりは片頭痛は脳の異常が引き起すものであり、痛み刺激に対する反応ではないと考えられます。

この研究の著者であるカルフォルニア大学の神経学教授、Dr.Peter James Goadsbyはこの結果は片頭痛を神経生物学的に理解し、その治療の上で重要であると述べています。Dr.Goadsbyは以下のように話します。「これは片頭痛は脳外の構造の異常ではなく根本的に脳の異常であるという我々の考えを固める重要な結果です。我々は”どの程度のどこから来る痛みが片頭痛の予兆を引き起すのか”という長年の疑問に対するはっきりとした答えを得たのです。」Dr.Goadsbyとそのチームはこの研究で、2013年国際頭痛会議(International Headache Congress)において、The Harold G. Wolff Lecture Awardを獲得しました。

片頭痛の前兆となる症状は様々で前兆がある人もいれば無い人もいます。前兆として起こる症状には吐き気、あくび、首の痛み、喉の乾き、羞明(光に対して敏感)、音恐怖、甘いものがほしくてしかたがない、気分変動などがあります。

過去においては、片頭痛の前兆は臨床現場においてあまり重要視されていませんでした。治療家も前兆については尋ねていなかった人も多かったようです。なぜなら、前兆についてあまり理解されていなかったため、前兆についての情報は役に立たず、診断や治療に影響しないと考えられていたとDr.Groadsbyは話します。片頭痛は血管の異常と考えられていたこともあり、さらには、痛み刺激に対する反応が片頭痛であるという考えもあったようです。しかし、Dr.Groadsbyは、彼の研究がこれらの考えが真実ではなかったことを示していると語ります。

Dr.Groadsbyの研究ではニトログリセリン(nitroglycerin、片頭痛の誘発要因としてよく知られている)を使用し、通常は前兆のない片頭痛持ちの患者に対し、前兆症状を誘発しました。これまでの研究では実際に頭痛が起こってから脳のスキャンを行っていましたが、今回の研究では、頭痛という痛みが引き起される前の前兆状態において脳をスキャンしました。

Dr.Groadsby「これまでの片頭痛に関する脳画像は片頭痛が引き起されているときの画像であり、それらの脳状態はただの痛みに対する反応を示しているもの、または片頭痛を処理している一部にすぎないのではないかという疑問がありました。片頭痛の前兆状態においての脳を調べる事によって、患者は痛みを持っていないので、これらの疑問(痛みに反応している脳活動を捉えているだけなのではないか?)を取り除きました。」

研究チームは、脳スキャンを通常の状態と前兆状態を比べたところ、視床下部(睡眠、食欲、気分、分泌調整を司る)を含めたいくつかの脳部分の活性化を発見しました。このことからDr.Groadsbyは「視床下部が片頭痛の始まりに重大に関連しているかもしれません。」と話します。視床下部以外にも中脳や橋(pons)などにおいて、片頭痛の前兆状態においての活動が認めまれました。

Dr.Groadsbyはこの研究から、患者の訴える痛みを軽視することなく、片頭痛は痛みに対する反応ではなく、脳の異常から発生しているものだという考えに注目すべきだと話しています。

References

1. Pauline Anderson. Migraine Really is Brain Disorder, 2013, Medscape News Today, accessed on 7/11/13 via http://www.medscape.com/viewarticle/807274?nlid=31945_1049&src=wnl_edit_dail&uac=180207PN)

 

2013.04- 慢性的な痛みを脳の異常として考察

今回は2013年4月のMedpage Today(1)の慢性的な痛みが引き起す可能性のある脳内の変化について考察した記事を紹介します。神経細胞が常に、刺激に応じて変化する性質、神経可塑性を持っている事は様々な研究により明らかになっていることです。この神経可塑性は機能神経学の根本となっていますが、神経可塑性は良い方向にも悪い方向に変化する可能性があります。

画像診断技術や神経生理学の発達により、痛みを経験するということは脳の構造的変化と供に体性感覚的、感情的、認識的、遺伝的要因によって影響を受ける多面的な過程であることがわかってきました。慢性的な痛みは中枢神経の変化を引き起こし、感覚や感情、痛みを抑制する調節性の神経回路を変えてしまう可能性があります。急性の痛みと慢性の痛みでは脳への影響においてはっきりとした違いがあります。慢性の痛みは痛みを処理する感情、認識の脳の様々な部位において構造的な変化を引き起します。これらの変化は、恐怖感、不安感、うつ感など感情的変化、認識的変化を引き起す危険性を高めるようです。

神経生理学の研究は個々の経験、考え、行動によっても変化する中枢神経の可塑性という能力を明らかにしています。中枢神経の再構築に影響する神経可塑性の要因には、薬を服用しているか、個々の健康状態、精神状態なども含むようです。身体を動かす事の少ない生活、社会的刺激が少ないなどということも頻繁に痛みと関連していると同時に、神経の可塑性に影響しうる要因です。慢性の痛みに対し脳は機能的、構造的、化学的に変化する可能性があります。痛みに対して脳の特定の部分、痛みのマトリックス(Pain matrix)が反応します。Pain matrixには第一次、第二次体性感覚皮質(S1,S2 Somatosensory Cortices)、島皮質(Insula)、前帯状皮質(ACC)、へんとう体(amygdala)、前頭葉前部皮質(Prefrontal cortex)、視床(thalamus)、大脳基底核(basal ganglia)、小脳を含みます。

神経画像診断技術の発達は、痛みが与える脳への機能的、解剖的、化学的変化を捉えることを可能にしました。例えば、voxel-based morphometry(VBM)は、脳の様々部分の灰白質の濃度を測定します。慢性の痛み関連する脳内のACC, thalamus, dorsolateral prefrontal cortex, cingulate cortex, insular cortexにおいて、慢性の痛み(繊維筋痛症、偏頭痛、骨関節炎など)を持つ患者において、灰白質の濃度が低下することが報告されています。

灰白質の変化と、痛みの程度と期間の相互関係も報告されています。痛みの期間が長いほど、灰白質の減少の大きさと関連しているようです。一方で、慢性的な痛みを効果的に治療することでACC, dorsolateral prefrontal cortex, amygdala, brain stemにおける灰白質濃度が増加することもわかってきています。Diffusion tensor imaging (DTI)を使用し、複合性局所性疼痛症候群の患者の白質の解剖的変化が確認されています。

機能的MRIを使用し、慢性的痛みを持つ方が痛みから気を逸らそうとしたときのPain matrixにおける痛みに関連する神経活動が低下することが報告されています。逆に、痛みを意識を向けたときには、Pain matrixの痛みに関する機能が活性化され、結果としより程度の大きい痛みとして知覚されてしまうと考えられています。このように脳の解剖的、機能的変化だけではなくmagnetic resonance spectroscopy (MRS)の測定では、慢性の痛みに対し、神経伝達物質の変化も報告されています。

このように脳の変化を画像として捉える技術の発達は、慢性的な痛みが及ぼす脳への影響を明らかにし始め、その診断や治療に役立っていくことでしょう。

脳の変化は、学習や発達にも関係し、我々が生きて行く上で必須の機能ですが、痛みに対し悪い方向にも変化していくこと、痛みは我慢するものではなく効果的に治療して行く事が、脳を健康に保つためにも大切と言えるでしょう。

 

References

1. Chrvala,C, Understanding chronic pain as a brain disease, 2013, Medpage today, retrieved from (http://www.medpagetoday.com/resource-center/pain-management/brain/a/38479?utm_content&utm_medium=email&utm_campaign=DailyHeadlines&utm_source=WC&xid=NL_DHE_2013-06-29&eun=g705162d0r&userid=705162&email=drreuvenrosenberg%40gmail.com&mu_id=5867361)

定期的なカイロプラクティクケアと健康状態(血清チオールレベルの測定)

神経カイロプラクティックのケアにおいて、定期的な矯正は関節機能、神経機能を正常に保ち、身体を理想的な状態に維持するのを助けます。症状がなくても定期的にカイロプラクティックに通う人は多くいますが、その効果を検証した研究を紹介します。

最初にご紹介する2005年の研究(参考文献1)は、何の症状もない人々を短期間か長期間のカイロプラクティックケアを受けるグループに分けて、それぞれの血清中チオール基(Serum thiol)の値を計測したのものです。チオール基とは近年、人間の健康状態や老化を測定するのに使われる事があるひとつの指標です。例えば、DNAの修復に重要なADPリボースポリメラーゼ(Poly ADP-ribose polymerase)はチオール基の 酸化、還元により酵素活性が制御され、血清チオールレベルがDNA修復能に関連することが報告されています。さらに血清チオールレベルが低下することでエイズ患者の致死率が予測できること(2)、また様々な疾患においてチオールレベルが低下していることから、チオールレベルが人間の身体の健康を保つ機能の指標として考えられることが報告されています。(3)

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血清チオールと様々な疾患の関連性を示唆しているグラフ。様々な疾患においてチオールレベルが低下していることを示しています。参考文献3。

そこで、定期的なカイロプラクティックケアがこの血清チオールレベルに影響を与えるのかどうかを調べました。研究では以下の3つのグループの血清チオールレベルが測定されました。1.何らかの疾患を抱えた人々(筋骨格系疾患を含める) 2.自覚症状が無くカイロプラクティックケアを8−52週間の期間定期的に受けている人々。 3.自覚症状が無くカイロプラクティックケアを52−312週間の期間定期的に受けている人々。すべてのグループは40歳以上の人々で構成されました。結果、グループ3の52−312週間の期間、定期的なカイロプラクティックケアを続けていた人々の血清チオールレベルが一番高いことがわかりました。

カイロプラクティックケアにおいて、関節と神経機能を正常に保つことが健康維持において、さらには老化防止のためにも効果がある可能性を示す興味的な研究でした。

参考文献:

  1. Surrogate Indication of DNA Repair in Serum After Long Term Chiropractic Intervention – A Retrospective Study, Journal of Vertebral Subluxation Research ~ February 18, 2005 ~ Pages 1-5, (accessed http://vertebralsubluxation.sharepoint.com/Pages/2005_1139_dna.aspx  on 05/23/13)
  2. Low serum thiol levels predict shorter times-to-death among HIV-infected injecting drug users.AIDS. 1997 Sep;11(11):1389-93. (Accessed http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9302450 on 05/23/13)
  3. Reduced Level of Serum Thiols in Patients with a Diagnosis of Active Disease. Journal of Anti-Aging Medicine.
    Vol.6, Number 4, 2003 Pero, R.W., Banne,A.F.

脊椎矯正により変わる脳の痛みへの反応(Using Functional Magnetic Resonance Imaging to Determine if Cerebral Hemodynamic Responses to Pain Change Following Thoracic Spine Thrust Manipulation in Healthy Individuals.)

J Orthop Sports Phys Ther 2013;43(5):340-348. Epub 13 March 2013. doi:10.2519/jospt.2013.4631 (accessed http://www.jospt.org/issues/id.2870/article_detail.asp on 05/13/13)

参考文献:J Orthop Sports Phys Ther 2013;43(5):340-348. Epub 13 March 2013. doi:10.2519/jospt.2013.4631 (accessed http://www.jospt.org/issues/id.2870/article_detail.asp on 05/13/13)

脊椎矯正、マニピュレーション、アジャストメントはカイロプラクターが主に使用する患者さんへのアプローチです。その効果は臨床的に大きな結果を出していますが、メカニズムなどを示した研究などはまだ少ないのが現状です。脊椎矯正によって構造的な問題を修正するという理解はかなり広まってきていますが、矯正による神経学的な影響を示す研究がもっと必要です。

2013年5月の発行された論文に、脊椎矯正の神経学的な影響を示唆する論文が発表されました。

脊椎矯正後、患者の”痛み”の程度が減少することがよく見られますが、その原因として、脊髄レベルでの局所的な鎮痛効果、ゲートコントロール(末梢から脊髄後根への刺激入力パターンの変化による痛みの抑制)などが考えられていましたが、実は脊髄より上の脳への影響も考えられています。今回JOSPTで発表された研究では、胸部脊椎矯正によって、脳への血量の変化が痛みの感じ方を大きく変化させる可能性を示しました。

fMRIとはMRIを利用し、脳活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法。

fMRIとはMRIを利用し、脳活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法。

男女5人ずつ、計10人の被験者はまず、それぞれの爪に刺激を受けて痛みを感じます。そのときの脳の活動をfMRIにて観察します。これにより、刺激を受けているときに、脳のどの部分は活動し、痛みとして近くしているかを確かめます。次にすべての被験者は背中、胸椎に矯正を受けてから、もう一度、同じ痛みの刺激を受けながらfMRI検査を受けました。

結果、脊椎矯正後のfMRIでは痛みを感じるときに活動する脳部分(島皮質)の活動が低下していることがわかりました。これが、脊椎矯正によって、脊髄の痛覚経路が抑制されたことによるものなのか、また、脳幹の水道周囲灰白質などが活性化され、下降性痛覚変調に作用したのか、解剖学的、神経学的、生理学的繫がりから、脊椎矯正によって起こるであろう様々な脳、脊髄への影響は提唱されていますが、それを実際にfMRIなど使って証明する研究はまだまだ少ないです。しかし今回の研究では、脊椎矯正による神経学的な脳への影響を大きく示唆する論文でした。